高山村の小さな家

まもなく定年を迎える夫婦の終の住処として計画された、延床面積約57㎡(車庫除く)の小さな住宅である。敷地は天文台が近くに位置する群馬県の山中にあり、周囲は傾斜した雑木林で、敷地の目前には道路を挟んで、広大な牧草地が広がっている。
奥行きが200mを超える牧草地は、樹木の生い茂る山中にあっては得がたい開放感と美しい風景を敷地の南側にもたらしているが、この小さな住宅から日常的に接する風景としてはいささか雄大すぎる側面もあって、荒天時や夜間には、この美しい風景が、逆に不穏な表情を見せることもある。そこで、南北に細長い敷地の接道面から距離をとり、敷地内に点在する広葉樹に守られるように住宅を配置した。
この場所はかつて苗木を育てる圃場であった。600㎡強の敷地内には十数本の(今では立派な大きさとなった)モミジが点在している。これらのモミジを極力伐採せず、また南東に向かって傾斜した敷地の勾配を利用し、時には離れた距離から、また時には梢に手の触れられそうな位置から、さまざまに楽しめるように建物を据え、開口部を配置していった。
建物には、山側(西側と北側)に向かってそれぞれ3寸の勾配で下る、中折れの片流れ屋根を掛けている。約18%の敷地勾配とは逆向きに傾けられた屋根は、朝日を室内にもたらし、また、西側に隣接する家からの眺望を確保するという目的で計画したものだが、結果としてこの小さな住宅の外観は、南側と東側は堂々とした高さを、逆に、北側と西側は屋根に手の届きそうな低さを、という二面的な性格を備えることになった。
この小さな住宅はローコストで計画されている。ローコストだけを目的にするならば、敷地を擁壁で平坦に造成し、人工的に設けた平地に建物を建てる方が良いかもしれないが、それは室内環境の多様性にも、周囲の環境の豊かさにもつながらない。ここでは敷地に手を加えることは最小限に留め、敷地の勾配から連続した緩やかなレベル差を室内に設けることで、住宅の内部から周囲の自然に対する多様な接し方が可能になるように計画している。傾斜した地面に接する地階は鉄筋コンクリート造の高基礎として、その上に平屋の木造を載せた構成である。
屋根断熱が必要な室内では、梁間に断熱材を充填し、天井材を張っているが、断熱の不要な軒下部分では、屋根の梁材はそのままあらわしとされ、この住宅の構造的な成り立ちが明らかになっている。同様に充填断熱を施した外壁は、クラック防止処理が施されたモルタルに撥水材を塗って仕上げている。
この住宅は、どこにでも建てられる小屋ではない。
この住宅は、小さな建築である。
イギリスの地方都市で数年間暮らした経験のある建築主は、田舎暮らしを全く恐れず、生活に必要な物品に対する考え方も明確であった。私たち設計者の果たすべき役割は、彼らの考える生活の本質を、この敷地に対してどのように調律するか、という点に絞られる。
主たる生活の場となる1階は浴室とトイレを除き、壁で仕切ることなく計画されている。一体的な室内空間を覆う屋根の勾配と床に設けられたレベル差、そして開口部から見える周囲の自然との距離感によって、小さな空間の中に様々な場所性が生まれ、天井まで達しない腰壁によって適度に視線が遮られる。居間に設置した薪ストーブは、一体的な室内空間を輻射熱で全体的に暖める。
地階は冬季の積雪に備えた屋根付き車庫である。田舎暮らしを支える様々な物品(薪や除雪機、さまざまな道具など)を収納する納戸でもあるため、余裕を持った面積で計画されている。地階の車庫から1階の玄関に向かって室内階段が設けられているが、スキップフロアの構成を取っているため、そのレベル差は1.5m強で、気安く往来が可能なようになっている。車庫に扉はなく、床下が外気となるため、居間・キッチンの床にも充分な断熱を施している。
室内の中央付近、キッチンカウンターの脇に、赤い錆止め塗装を施した1本の鉄骨柱が建ち、大スパンの屋根を支えている。この柱は屋根の梁背を抑え、構造を最適化するとともに、自然環境の中に建つ「家」としての空間的中心を示す存在になっている。

名称:高山村の小さな家
施主:個人
所在地:群馬県吾妻郡高山村
用途:戸建住宅
面積:79.77m2
竣工:2015年4月
基本・実施設計:カスヤアーキテクツオフィス(粕谷淳司・粕谷奈緒子・古橋一真)
監理:カスヤアーキテクツオフィス(粕谷淳司・粕谷奈緒子・古橋一真)
構造設計:小西泰孝建築構造設計(小西泰孝・円酒昴)
照明デザイン:ソノベデザインオフィス(園部竜太)
施工:有限会社大原工務所(大原彰)、沼田保全有限会社(金子光喜)
撮影:吉村昌也(コピスト)

Project name:Small house in Takayama-mura
Client:Personal
Project site:Gunma, Japan
Function:Private House
Size:79.77m2
Design & Supervise:Atsushi+Naoko Kasuya, Kazuma Furuhashi(KAO)
Structural Design:Yasutaka Konishi, Noboru Enshu(KSE)
Lighting Design:Ryuta Sonobe(Sonobe Design)
Contractor: Ohara-Koumusho LTD.(Akira Ohara), Numata-Hozen LTD.(Kouki Kaneko)
Photo:Masaya Yoshimura(Copist)