高尾山口の家

 

国際的に活躍する若い研究者夫妻の生活と仕事の場であり、国内外からの来客を迎えるゲストハウスも兼ねた住宅である。敷地の背後には、東京都心から最も近い緑豊かな国定公園が控えている。この得難い敷地は市街化調整区域に位置し、以前、ある企業が寄宿舎を建設するために造成しながらも計画が頓挫し、放置されていた場所であった。敷地は1,000m2を超えるが、その大半が傾斜しており、平地はわずかしかない。住宅として妥当なコストに抑えるために土地の起伏を改変せず、かつ、周囲の自然風景と多様に接することのできる配置計画が、初期スタディの主要な課題となった。
配置に続いて私たちが考えたのは、住宅を構成する素材の問題である。国定公園の豊かな自然がもたらすものは美しい景色だけでなく、強い風と大量の木の葉、そして多様な生き物たちである。現在の住宅に一般的に用いられている素材は内装材・外装材ともに、汚れのない新しい状態が最善とされ、それを保つことに主眼が置かれているが、こうした近代主義的な考え方では、周辺の強い自然に圧倒されてしまうように思えた。

敷地と建築、すなわちコンテクストとテクストの乖離、そして素材と時間の問題は、近代以降の建築が常に抱え続けてきた矛盾であり、小綺麗に宅地開発された現代の多くの住宅地では、私たちはそれに気づかないふりをしてきただけに過ぎない。一方で、強い自然や時間に向き合えるのは木材や石材といった自然素材だけであるという考え方も、リソースが有限であることを無視したノスタルジーに過ぎない。この住宅を考えるにあたり、私たちは素材と時間に関わるこれらの諸問題に、改めて直面することになった。
時を同じくして、以前から協働関係にあったメーカーの技術者が、私たちの問題提起に応え、これまでにない素材を提示した。それが、今回の住宅で内外装材に用いた、高炉スラグ・再生紙パルプ等の工業廃材を利用したリサイクル建材(SOLIDO)である。この住宅では工業製品であるSOLIDOを、木材や石材、そしてコンクリート等と等価の素材として試験的に採用し、一方、通常の住宅で用いられる石膏ボードやクロスは全く用いずにデザインを行なっている。

この住宅で私たちは建築は材料・設備や設計手法の進化だけでなく、根本的に職人の情熱と技術で支えられていること、そして、その関係をどのように構築するかが設計者の役割であるという、私たちの信念を体現することも意識した。この住宅には高度な断熱性能や全館空調機等の先進的な設備が備えられているが、それらは周囲に閉じつつ開かれた室内で姿を潜め、床や壁、各所に備えられた家具等のしつらえとともに、風景とひとつながりになった場所を形成している。

普遍的でありながらサイトスペシフィックであること。すなわち、ありふれていながら、その場所にしか存在し得ないという一見矛盾した性質は、伝統的な民家が備え、一方で近代以降の建築が失っていた価値であり、住宅を設計する上で、私たちが常に目指しているものでもある。この住宅が、現代の一般的な住宅よりもむしろ、その素材も形状も全く異なるにも関わらず、瓦屋根を持った伝統的民家に近い姿をまとうことになったのは必然の結果であり、今後の住宅が進むべき一つの方向を提示できたのではないかと考えている。


名称:高尾山口の家
施主:個人
所在地:東京都八王子市
用途:戸建住宅
面積:185.47m2
竣工:2017年4月
基本・実施設計:カスヤアーキテクツオフィス(粕谷淳司・粕谷奈緒子・古橋一真)
監理:カスヤアーキテクツオフィス(粕谷淳司・粕谷奈緒子・古橋一真)
構造設計:小西泰孝建築構造設計(小西泰孝・円酒昴)
照明デザイン:ソノベデザインオフィス(園部竜太)
施工:株式会社クラフトホーム(阿部浩久・小松聡)
撮影:鳥村鋼一(鳥村鋼一写真事務所)、土橋一公

Project name:House in Takaosanguchi
Client:Personal
Project site:Tokyo, Japan
Function:Private House
Size:185.47m2
Design & Supervise:Atsushi+Naoko Kasuya, Kazuma Furuhashi(KAO)
Structural Design:Yasutaka Konishi, Noboru Enshu(KSE)
Lighting Design:Ryuta Sonobe(Sonobe Design)
Contractor:Krafthome Co.,LTD.(Hirohisa Abe, Satoshi Komatsu)
Photo:Kouichi Torimura, Kazumasa Dobashi